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加線はどう読むのか

加線は、五線からはみ出した音のために、音符一つ分の幅だけ書き足される短い線です。読み方は五線の中とまったく同じです。実際のページでは、いちばん上の線の少し上に、短い横棒が二本。長さはどちらも、その上に乗っている符頭とほとんど変わりません。五線とはつながっていません。二本どうしもつながっていません。白い余白に、短い棒が二本だけ浮かんでいます。

この短さを決めたのは誰か。楽譜を彫って刷ってきた人たちです。必要な一音のために、必要な分だけ引く。だから高い音が続くページは、小さな線が宙にばらばらと散っているように見えます。五線がそのまま上へ伸びているようには、まず見えません。

音符一つ分の幅

五線は五本の線が等間隔に並んでいます。読むときの目は、その五本を一枚の面として扱っています。線と線のあいだの白い帯まで含めて、一続きの地面が紙の上にあり、音符はそのどこかに置かれます。加線にその面はありません。一本が受け持つのは、その線に乗っている符頭ひとつだけです。幅もそれに合わせて切り詰めてあります。

三本、四本と積み上がると、目は寄りかかる場所を探します。そこには何もありません。線は一本ずつ離れて浮いていて、下の五線とのあいだには白い距離があるだけです。ここで手が止まるのは当たり前で、原因のいくらかは紙の側にあります。目を置ける手がかりが、そもそも置かれていないのです。

五線の続き、建て増しした部分

加線は五線の続きです。同じ家に建て増しした部分で、階の高さも母屋にぴったり揃えてあります。線と間が交互に並ぶ順番もそのままです。上へ一つ動けばドがレになり、もう一つでミになります。五線の中でしていることを、そのまま外へ延ばしているだけです。

ただ、その建て増しには壁も廊下もありません。必要な一音の真下にだけ床を張って、あとは省いてあります。いちばんよく出会う加線の音は真ん中のドです。ト音記号の五線の下に一本、ヘ音記号の五線の上に一本、同じ音がどちらからも加線一本で届きます。ヘ音記号側の加線も作りは同じですが、あちらの読みにくさには別の事情があって、それはヘ音記号の話に書きました。

覚えることは増えていません。近くの知っている音からの距離で読むやり方は譜読みの手順に書きましたが、加線の上でも同じで、距離が少し長くなるだけです。それでも四本目、五本目まで来れば、一本ずつ数えることになります。慣れた人でも数えています。五線から遠い音はそもそも出てくる回数が少なく、その先の話は忘れることについてに譲ります。

書ききれなくなった先の 8va

バダジェフスカの「乙女の祈り」は、十九世紀に家庭用の楽譜として爆発的に売れた曲で、日本ではいまも発表会の定番です。感傷的であることを少しも恥じていない音楽です。主題のあとに変奏が続き、分散オクターブが鍵盤のいちばん高いところから転がり落ちて、また駆け上がっていきます。聴きどころはそこにあります。あの下降を運んでいるのは手首で、腕ごと落としていく勢いが要ります。一音ずつ丁寧に弾き分けようとすると転がらず、練習曲のように聞こえて、曲が成り立ちません。

鍵盤の端まで届くこの音型を、鳴る高さのまま五線に書き起こせば、ページは加線の壁になります。そこで 8va の出番です。オクターブ上げて弾いてください、という指示ひとつで、加線は紙から消えます。

8va という記号があるのは、楽譜を作る側が、加線を積み上げたページは読めないと認めたからです。理屈のうえでは何本でも引けます。それでも、あるところから先は引かないと決めた人たちがいました。読みにくいという言い分に楽譜の側が同意した跡が、この記号です。


書いたのはiOSアプリNotaluneの作者です。忘れた音符ひとつで練習が止まらないように作りました。手持ちの楽譜を撮影すると、音符の上に音名が出ます。五線からはみ出して宙に浮いた音にも、撮影したページの上でそのまま音名が付きます。 自信が持てないときは、推測せず空白のままにします。ひとりで読みたくなったら、ワンタップですべての音名を隠せます。ほかのガイドは学ぶにあります · ご質問はsupport@notalune.comまで。